今の時代、若い世代の母親で野菜や果物を洗剤で洗うという方はほとんどいないでしょう。
若い世代の父親や一人暮らしの方も、台所用洗剤といえば食器や鍋を洗うもの、という固定観念を持っているのではないでしょうか。
ところが、60代や70代の年配の方のなかには「昔は野菜や果物を洗剤で洗っていた」とか「むしろ洗うことを推奨されていた」という方が少なからずいます。
若い方にとっては、土などを水洗いすれば済むのでは?と疑問に思うことでしょう。そこで今回は、野菜と台所用洗剤の歴史をまとめてみました。
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洗剤で野菜を洗っていた世代
昭和40年代の後半、田舎に住んでいて農家に囲まれていると、近所の人からキャベツやレタス、ハクサイなどの「おすそわけ」をもらうことはよくある光景です。
受け取ると、当時は台所の流しで野菜を洗う家庭が多くありました。たらいに水をたっぷり張ってから、当時ポピュラーな台所用洗剤だった黄色いボトルの洗剤を水に少し溶かして、野菜を漬けて洗います。
現代では考えられないかもしれませんが、野菜を洗剤で洗う習慣があったのです。
中国産の野菜はホタテ洗剤で洗う?
今の日本ではスーパーで野菜を買い、生のサラダで食べることもありますが、洗うときは基本的に水で流すだけです。品質管理がしっかりと行われているので、水洗いでもとくに問題ないからです。
しかし、中国野菜は強めの農薬が残っていたり、品質管理が不十分なこともあります。大手のスーパーやデパートであれば品質チェックが行われていますが、それでもお腹を壊さないか不安な人は「ホタテのおくりもの」という洗剤を使ってみましょう。
ホタテのおくりものは、野菜や果物の洗浄・除菌ができます。素材も100%天然由来のものなので、中国野菜に限らず使用でき、万が一人間の口に入ることがあっても安心です。
台所用洗剤の用途に“野菜・果物”と書いている各メーカー
多くの方は「台所用洗剤=食器を洗うもの」ということが脳裏に強くインプットされているのではないでしょうか。だからこそ、洗剤を使って食器以外の食べ物である野菜を洗うことは、不思議に感じるのです
最近の台所用洗剤のCMも、野菜や果物を洗うシーンは一切出てきません。最初から「皿ありき」の宣伝になっています。今の若い世代ほど、こうしたCMが印象づけられているので、野菜を台所用洗剤で洗うという常識がないのです。
ところが、意外な事実があるのをご存知でしょうか。実は身近な台所用洗剤は、裏面の原材料・用途表示に「野菜・果物」と記載されているものもあるのです。洗剤のメーカーが「当社の洗剤で野菜を洗ってください」と言っているということでしょうか。
実際にどれくらいの割合で「野菜・果物」を用途とする記載があるのか、某ドラッグストアに陳列されている銘柄で調べてみました。
「野菜・果物」の記載があった洗剤
- LION「チャーミーVクイック」
- ロケット石鹸「マイフレッシュ」
- 花王「キュキュット」
「野菜・果物」の記載がなかった洗剤
- P&G「JOY」
- 旭化成「フロッシュ」
- LION「チャーミーVマイルド」
- LION「チャーミーマジカ」
- 花王「キュキュット(泡タイプ)」
なんと、8種類のうち3種類の洗剤の用途欄に「野菜・果物」と書かれていたのです。全ての洗剤に書かれているわけではないようですが、この違いは何なのでしょうか。
用途に「野菜・果物」と書いてある・書いていないものの違い
疑問を解明するため「チャーミーVシリーズ」や、最近話題の超水切れ洗剤「マジカ」などを販売しているLION株式会社へ問い合わせてみました。
問い合わせた内容は、以下のとおりです。
- ボトル裏の用途に「野菜・果物」と書いてある・書いてないものがあるのはなぜか
- LION社製品では、マジカやチャーミーVシリーズのチャーミーVマイルドには記載がなく、チャーミーVクイックには記載があるが、違いとは
LION社コーポレートコミュニケーションセンターの担当者の回答によると、
- 前提として、洗剤は「家庭用品の品質表示法」という法律に従った製品であること
- この規定のなかで、洗剤を水で希釈した状態が中性(PH6.0~8.0)のものだけ「野菜・果物」の表記があること
とのことでした。要するに「家庭用品の品質表示法」という法律上、洗剤を水で薄めたときに中性のものが「野菜・果物」と表記されるということです。
弱酸性・中性・アルカリ性の洗剤の違い
中性洗剤とは何かが分かったところで、今度は野菜を昔は洗剤で洗っていた理由や、弱酸性・中性・アルカリ性の洗剤の違いについて質問してみました。
LION社の担当者の回答は以下のとおりでした。
- 弱酸性の洗剤は、人間の皮膚が弱酸性であることに合わせて「お肌に優しめな設計」になっていること
- 石鹸がアルカリ性であるように、アルカリ性の洗剤は「より洗浄力を引き出すタイプの設計」になっていること
- 中性の洗剤は、洗っても野菜の品質に影響が出ないように作られたこと
- 野菜を洗剤で洗うのは、昔は野菜の生産に農薬を使っており、また、葉物野菜には回虫などの寄生生物のタマゴが付着していることも多く、それらを取り除くためであったこと
要するに、弱酸性は人肌への優しさ、アルカリ性は洗浄力、中性は野菜の品質保持のために作られているのです。そして昔は農薬が使われていたり、野菜に寄生虫がいたので、野菜を洗っていたことが分かりました。
洗剤の歴史と生活環境
昔の方がなぜ野菜を洗剤で洗っていたのかが分かり、洗剤の性質の違いについても理解できたところで、さらにLION社の洗剤の歴史を紐解いてみました。
昭和30年~40年代、高度経済成長の裏で河川の汚染や土壌汚染が社会問題化する背景があったため、野菜や果物も洗える中性洗剤が求められていました。
そんな頃、昭和40年代によくLIONのCMが流れていて、嶋大輔さんが歌うチャーミーの歌が流行っていました。
その時代に幼少期を経験した人は、洗剤には「皿ありき」という意識が刷り込まれて育ったのではないでしょうか。そのため、昭和40年代以降の世代にとっては、野菜や果物を洗剤で洗うという認識が失われていったのです。
野菜や果物を洗わなくなっただけならまだしも、近年は消費者のニーズが多様化しており、メーカーも大変なようです。市場の好みや、中性以外の洗剤を好む消費者が増えたり、より手肌に優しい使用感が求められたり、一方で泡立ちと洗浄力が持続する弱アルカリタイプの洗剤が求められたり―。
最近では、無農薬栽培の野菜やオーガニック野菜が定着しつつあり、野菜を洗剤で洗う習慣はほぼ見られなくなりました。それどころか、サラダにする野菜を洗うとビタミンが逃げてしまうと考えて、水洗いせずに食べる方も多いです。
このように、洗剤の歴史は、人々の生活環境や洗剤の好みなどと密接な関係があるのです。
まとめ
今回調べてみて、野菜・果物を洗剤で洗う理由がわかりました。
確かに、東京を流れる多摩川も、昭和30年代には死の川と呼ばれ、魚も住めないようなひどい河川だったそうです。しかし、今は休日になると釣りをする方がいたり、野草摘みをしている方もいます。春になると、水面に若鮎も跳ねるほどです。
洗剤の歴史は、こういった農業と生活環境の歴史に深くかかわっており、現代でも必要に応じて洗剤で野菜を洗うことができるのです。